2024年12月の記事一覧

OTOTOY Weekly 新譜紹介、10・11・12月分

(OTOTOY Weeklyの新譜紹介から10・11・12月分を順次転載)

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10月第1週

Murmur Mirror『Smash the Mirror』

「宅録系インディ音楽ユニット」を名乗るMurmur Mirrorの1st EP。ヴォーカルのchisakiとコンポーザーのumz (sugardropのベースでもある) の二人組。ドリーミー、歪み、キラキラ、ローファイ、シューゲイズ…… 過去をフラットに消化し自ら歩む様はとても今風。T.4はかつてスウェディッシュポップと渋谷系が共鳴していた頃を思い出させる。T.1のベース/ギター/ドラムの音色とヴォーカルの声質の組合せは最適解では。ライヴもやるのであれば絶対に観たいユニットだ。

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10月第2週

Meg Bonus『18PERSONAL』

2005年生まれの現在19歳、野本慶 (vo,g,key,etc) と工藤八雲 (drs) からなる2人組ユニット、Meg BonusのデビューEP。すべての楽曲の作詞・作曲・編曲および主な演奏を野本慶が行い、工藤八雲はドラムを担当。2024年5月1日にデモ音源が完成。そのデモ音源の完成と共にユニットを結成。完成したデモをSoundCloudに公開したことをきっかけに、レーベル担当者が「一聴惚れ」し、まったくの無名ながらリリースが決定したとのこと。一聴してのユニークさ、やりたいことに満ちた煌めきは確実に心に引っ掛ける。ぜひ聴いてみてください。

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10月第3週

HOME『HOME EP2』

その名の通り、沖縄在住HOMEの2nd EP。メンバー3人がいい感じでばらばらの違うベクトルを持っているのがHOMEの魅力だが、それが時に束になりまた拡散しを繰り返すなかで魅せる移ろいが、とても心地よい。11月には大阪と東京でリリパあります。ぜひ体験を。

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10月第4週

ラブリーサマーちゃん「「Garden of Remembrance」劇中曲」

ラブサマちゃん久しぶりのリリースは、山田尚子監督オリジナルアニメの劇中歌。“Garden of Remembrance” は展開の豊かさ、スケールの大きさ、なによりその優しさに心打たれる。

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11月第1週

The Cure『Songs Of A Lost World』

良いアルバム。アルバムタイトルにせよ曲タイトルにせよ、名が体を表している。いわゆる「重たく終わる」アルバムのラスト曲だけが詰まっているかのよう。このアルバムとちゃんと向き合わないといけないんだろうなと思いながら何度か聴いたが、まだ結論は見いだせず。おそらくそこにあるのは終末ではなく時間の重みなのではないか。私見だがロック・ミュージックとともに長い時間人生を歩んだ自覚があるひとは一度は聴いたほうがいい。

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11月第2週

SACOYANS『SUN』

先行の「サモトラケのニケ」配信のときにここに書いたことに満ちている。つまり、めちゃくちゃうるさくて、ぜんぜんうるさくない。すごく歪んでいるのに、すごくクリア。キラキラの絶妙な半歩手前に留まり、ギターの綺羅びやかなストロークやアルペジオが際立つ、全9曲。1st・2ndから引き継がれるSACOYANの歌詞と歌メロの卓抜さ、唯一無二のSACOYANのヴォーカルの魅力、ギターの喧しさと綺羅びやかさ、メロディアスでパワフルなベースとドラムはそのままに、もともとのSACOYANの魅力だったザラつきや不安定さが、だからこそ軽やかで清々しい。リード曲が「サモトラケのニケ」であるように、理想としての美、勝利の誇り、不完全の肯定、SACOYANSの3rdはそんなアルバムになったと思う。

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11月第3週

しろつめ備忘録『リマインダー』

待望の1stアルバム。T1〜T3まではこれまでのリリースやライヴで「知ってる」しろつめ備忘録だが、T4あたりから知らないしろつめが見え隠れしはじめる。アンニュイと称されるだろう顔はそのままに、心の奥にある赤さや黒さが垣間見え、惹きつけられる。ひとひら、その感激と記録、hardnutsと素晴らしいリリースを重ねる〈Oaiko〉レーベルからの新たな会心作。来週金曜日は下北沢・近道でリリパです。T7 “幸せの意味なんて” の終盤でぶん殴られたい。

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11月第4週

Homecomings『see you, frail angel. sea adore you.』

心の凹凸を均してくれる音楽たち。押さえつけてではなく、内側から繕うような。そういったものがふと必要なときそこにいてくれるアーティストに、どうしたら感謝を伝えられるのだろう。

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12月第1週

明智マヤ『demo』

Maya and the Elephant in the Room『council』

THEティバのGt/Vo明智マヤがソロ名義とソロ・プロジェクトのアルバムを2枚同日リリース。ソロ名義の『demo』はギター弾き語りの曲を集めたもの。ソロ・プロジェクであるMaya and the Elephant in the Room『council』はカセットテープ等のフォーマットで今年リリースされたアルバムの配信版で、さまざまな楽器を使って奏でられるサーカス/メリーゴーラウンド感あふれるベッドルーム・ミュージック。どちらもTHEティバとは異なるテイストをみせ、三者三様でありながら、通底する陰とそこに灯る光により明智マヤらしさが貫かれている。

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12月第2週

Hamabe『シーサイド』

日常に寄り添う、というとありふれた表現になってしまうが、暖かな日差しあふれる冬の午後、しんとした深夜、絶望と希望がないまぜとなる空が明け白むその1時間前、きっといつ聴いても心を揺らし、すこしばかり温めてくれるだろう。いまの暮らしの大切さも何かしらの懐かしさも感じさせてくれる全10曲入り、彼らのファースト・フル・アルバム。

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12月第3週

ponderosa may bloom『color』

エイプリルブルーの船底春希がプロデューサーを、エイプリルブルー/ex-For Tracy Hydeの管梓が音楽ディレクターを務めるアイドル・グループ、ponderosa may bloomの1st EP。とにかく曲が良い。歌唱パフォーマンスも良い。ロック/ポップ/アイドル歌謡、三者の対立と闘争を調和と神性へと導く新たな提案。ぜひ一聴を。

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12月第4週

elephant「GRIEF FILMS」

山口産オルタナバンド、elephantが約5年ぶりとなる作品をリリース。最近のライヴで演奏されている新曲たちがついに音源化。オルタナティヴ・ロックというものにあらためて向き合い、よりソリッドで、だが汗や熱のウェットさもより大切なものとなった楽曲たち。圧倒的に生々しい音像。聴くものの通常よりもより一段深いところにある、感情とも言えない曖昧な塊に命を吹き込むような一作。

ponderosa may bloomの1st EPリリパをみた

(OTOTOY編集後記からの転載です)

ponderosa may bloomのライヴを観るたびにこれは一体なんなんだ? と思う。単純に言えば、とても良い曲をプロフェッショナルなクオリティで歌い・魅せている“だけ”であり、それはアーティストとしては当たり前のことだ。当たり前を当たり前にやるのが稀なのもまた事実だが、やはりこのグループにはそれ以上の何かがある。ライヴでの “遊色効果” 大サビ・落ちサビの御妃桜夕→桜庭莉々華のリレーは2024年の東京で聴くべきもの十指に入るのでは、とさえ思う。もちろんそこ以外にも聴きどころがたくさん、ちょっと痺れるくらいに。当たり前以上の「何か」がなんなのか、わかってしまったら演るほうも観るほうも夢がなくなるのだろうな、と思いながら、自分は今年もいろんなライヴに行ったのだろう。2024年のライヴが納まったのか自分でもまだよく分かりません。この後記が今年最後なのかもわからずにこれを書いているのでとりあえず…… 今年もお世話になりました。よいお年を!

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今週の「OTOTOY NEW RECOMMEND」への推薦曲は、〈ほんとに曲がいい、歌がいい、ハイ・クオリティの新しい調和がありそうでなかったものを生む好例〉、ponderosa may bloomの “晴天シグナル”、Meg Bonusの “jet”、天童児 直の “Don’t look back Today” の3曲です。

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〈evala 現われる場 消滅する像〉にいった

(OTOTOY編集後記からの転載です)

14日からICCで始まったevala初の個展〈evala 現われる場 消滅する像〉へ。“visual arts” に対しての “sound arts”。であるが、空間的な表現であるが故だろうか、「耳で視ること」がひとつのテーマとなっている。だが、体験していてなにより感じさせられるのは「時間」でした。聴くことと時間との不可分さ。ヴィジュアル・アートには静も動もあるが、サウンド・アートに「静止音」というのはあるのだろうか? きっとあるにはあるのだろう (興味深い)。それにしても「音」というのは「画」よりも遥かに強く、聴く (視る) 側自身を問うてくる。何を感じる感じないはお前の中に何があるかないかだ、みたいな。こわい。少なからぬ人が感想として言っているが、体験の「喩え」でいうのであれば、温泉 (それがいろいろあるという意味ではスーパー銭湯か) が割と近いです。つまり「ヴィジュアル」のように、さっと観て帰る、というのができない。行かれるときは時間に余裕を。ぜひ。

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今週の「OTOTOY NEW RECOMMEND」への推薦曲は、〈口惜しいかな (いや別に他意があるわけではないです) 絶対的に良い歌メロというのはあるわけで。曲をモチーフにした映画が来年公開だそうです。これはその主題歌〉、asmiの “大きな玉ねぎの下で”、Trooper Saluteの “幽体離脱”、リーガルリリー, ミト (from クラムボン) の “キラキラの灰 (Twinkling Remix)” の3曲です。

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家主をCLUB CITTA’でみた

(OTOTOY編集後記からの転載です)

家主、ツアー・ファイナル、ソールドアウト公演。ゲストはthe pillows。超絶良かったです。12月にしてマイ今年ベスト級。ひょっとしてピロウズ・ファンのほうが多いのかな? と思っていたらそんなことはなく。若い客層の満員のフロアの盛り上がりも含めて、受け継がれるロックの希望と未来が確実にそこにありました。あと音がすごく良かった。PAはもちろんですが、おそらく機材側のセッティングも。体制・スタッフ陣が皆、素晴らしい。今のギターヒーローは田中ヤコブと田澤守 (ベランダ) だと確信した2024年12月第一週でした。

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今週の「OTOTOY NEW RECOMMEND」への推薦曲は、〈尽きせぬ展開、詰め込まれる多彩なヴォーカルの魅力、エレクトリック・ギターの美しさ、深く息を吐いてしまうエンディング〉、君島大空の “Lover”、The Otalsの “ウチは泣きそーです”、4s4kiの “極悪人” の3曲です。

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Ted Nelsonの講演会にいった

(OTOTOY編集後記からの転載です)

テッド・ネルソン、ミュージシャンではありません。社会学者、ヴィジョナリー、情報技術者。アーティストでもあると思います。「ハイパーテキスト」と「ハイパーメディア」の祖です。いまやスマホやタブレットやPCやサイネージの画面で文字を見るとき、必ず彼の思想の上にいると思って過言ではありません。もちろんそれはひとりの功績ではなく、ヴァネヴァー・ブッシュ「Memex」(1945)、ダグラス・エンゲルバート「NLS」(1968)、テッド・ネルソン、ティム・バーナーズ=リー「World Wide Web」(1990) といった連綿たる試みや、それに並走する、通信やインターネット、コンピュータやスマートフォンの進化によるのですが。ひとつ面白いのは、これらが結果的に、個人の強化 (Personal Augmentation) 、グループや組織の強化 (Group Augmentation) 、コミュニティや社会の強化 (Society Augmentation) を、共通の「道具」や「言語」のもとで行うのを可能にしたことです。むりやり音楽の話にすると、個人の創作、チームでの制作や活動、そしてそれらをコミュニティや社会で分かち合い・心を豊かにし・影響し合い・さらに新しいものを創っていく、そうしたことが地続きにできていることの不思議さ、でしょうか。別に誰かが設計し帝国を構築したわけでもないのに、改めて面白いな、と。Ted Nelsonの講演は1995年と96年にも聴いていて、28年ぶりでした。そういうライヴも最近多いですよね (笑)。

先週は、しろつめ備忘録のリリパとベランダのワンマン、どちらも最高でしたが今日はこの話題で。ごめんなさい。

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今週の「OTOTOY NEW RECOMMEND」への推薦曲は、〈ハシリコミーズ、新体制初の作品はシングル2枚同時リリース、良い意味でのとっ散らかりが魅力の彼ららしい2枚〉、ハシリコミーズの “自分の魅力に気づいてよ”、Hammer Head Sharkの “アトゥダラル僻地”、ponderosa may bloomの “遊色効果” の3曲です。

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