2020年10月の記事一覧

「共通の領域」

(OTOTOY編集後記からの転載です)

先週の新譜のなかで特に印象的だったのは、神様クラブのトラックメイカーでもある、ウ山あまねの『Komonzo』でした。サウンドの表面的な構造はどことなくCorneliusを連想させ、実際、神様クラブ名義でのインタヴューでは「(影響を受けたアーティストを聞かれたら)Cornelius、Animal Collective、RO GANGの3組を挙げています」と答えている。しかし大きく異るのは作品と聴き手との間の〈境界〉のあり方ではないだろうか。ウ山自身がこのEPについて「自分と大勢の他者との共通の領域についての作品です」と語るように、そこには絶対性や鋭敏さよりも人懐っこさが感じられる。〈バリアー〉を張ることに価値を見いださないこの作品の感覚、そこに時代が進んでいることを強く感じた先週でした。

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今週のOTOTOY NEW RECOMMENDへの推薦曲は、〈才が余りある、でもどこか人懐っこさを感じる楽曲が詰まったEP『Komonzo』から〉、ウ山あまねの “リモデラ” と、〈情景の描写力に満ちた1stミニ・アルバム『音楽と密談』から〉、浦上想起の “とぼけた顔” の2曲です。

there must be light

(OTOTOY編集後記からの転載です)

某野外、某ホールに続いて、この土日に7ヶ月ぶりのライヴハウスへ。土曜日はシバノソウとthat’s all folks。シバノソウの『あこがれ』はこの夏いちばん聴いたアルバムなので当然の帰結か。そして日曜日はナツノムジナとOs Ossos。土曜日は着席、日曜日はスタンディング。人数制限+ディスタンスではあるけど、よくある「空いてる日」だと思えば前と変わらない、戻ってきた感がありました。(話はそれるけど個人的にはライヴハウスはパンパンに入れないほうがいいんじゃね派です。気軽にドリンク買いに行って戻ってこれるくらいがちょうどいいと思ってます。)4アーティストとも皆、美しく・カッコよく・とっても良かったです。ただいま戻りました。

……という文を今週は載せる予定だったのだけど、いまは、今日の報せに打ちのめされています。なんだよそれ。音楽はまだ聴けていません。ごめん。でも、ありがとう。

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今週のOTOTOY NEW RECOMMENDへの推薦曲は、〈家主のフロントマン、田中ヤコブが放つ大傑作ポップス・アルバム『おさきにどうぞ』から1曲〉、田中ヤコブの “小舟” と、〈福岡拠点のDeep Sea Diving ClubがBeacon LABELからデジタル・シングルをリリース。今日みたいな夜に〉、Deep Sea Diving Clubの “cinematiclove” の2曲です。

ソロコン

(OTOTOY編集後記からの転載です)

私立恵比寿中学、安本彩花のソロライヴを観て胸を打たれました。ア・カペラで歌われた“ジャンプ”は事件級。たったひとりでこの静寂を支配できる歌い手はそうそういない。「人生じゃつまらない」の部分のヴォーカルの卓抜さや、「心臓の」の真正面からぶち当たる表現と「今だ」の告白するかの表現の両立っぷり。続いて歌われたセットリスト中唯一のカバー曲が岡崎体育の“エクレア”という、なにひとつ間違いのない選択。一番の衝撃だった安本彩花自作の新曲“スーパーヒーロー”は、システムとしてのアイドルではなく、職業・アイドル、22歳、人間・安本彩花の内面から湧き出た「ブルース」でした。同時にこの曲は、システムから生まれた楽曲への、とりまく大人たちへの、共に歩むファンたちへのアンサーソングでもあり。グループの既存楽曲と同じタイトルである必然性がそこに。笑顔で客席に目線をやり観客を指差しながら「あなたが〜」「いい人と〜」「君の〜」と歌う。自ら立つステージを指差し「この場所で待ってるから」と歌う。情況と有り様に対するアイドルとしての回答。参りました。

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今週のOTOTOY NEW RECOMMENDへの推薦曲は、〈aikoからしか生まれないメロディと歌詞と歌唱、以外なんて言えばいいの〉、aikoの “ハニーメモリー”と、〈音楽の魔法に何十年でも化かされていたい〉、ビッケブランカ VS 岡崎体育の “化かしHOUR NIGHT” の2曲です。

aiko / ハニーメモリーへの一言コメントはコメントを放棄してますね。すみません…… ビッケブランカ VS 岡崎体育はぜひMVをみてほしい。これで泣けてきちゃうから世情に弱りすぎだな俺(笑)。


new normal, new thinking

(OTOTOY編集後記からの転載です)

ニュースにも書いた代田・下北沢〈BONUS TRACK〉でのイベントを覗きに日曜日は下北沢へ。街はとても賑わっていて、開催中のカレーフェスティバルも盛況そうでした。街行く人々のほとんどはマスク着用ですが、「距離」のとりかたはだいぶ以前に戻りつつあります。個人的には9月に半年以上ぶりの1000人超規模のイベントに行ったのですが、2週間が経過してクラスター発生等の報はなく、安堵しています。関係者の方々は当日以降も心休まらない日々だったのではと思います。スマホの通知が鳴るたびに心臓が痛くなるような。ほんとうにお疲れさまでした。いまの世界は一見戻ったようで実は新しい世界のはず。この賑わいが眼前にあるからこそ、「かつての思考」から自由にありたいと、街をみていて改めて思いました。

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今週のOTOTOY NEW RECOMMENDへの推薦曲は、〈トロントのインディーロックバンドKiwi Jr.がSub Popと契約し新曲をリリース。タイトルは “Undecided Voters (浮動票)”〉、Kiwi Jr.の “Undecided Voters” です。