(OTOTOY Weeklyの新譜紹介から2025年10・11・12月分を転載)

・・・

10月第1週

ANORAK!『Fav Riff』

各所に衝撃を与えた2ndアルバムから約1年、海外ツアーを含む経験を経て放たれた新作EP。打ち込みとバンドサウンドの融合はますます生々しく、同時によりスタイリッシュに研ぎ澄まされた。キャッチーな歌メロは時に鋭く耳を突き刺す。ギターの快感は言わずもがなだが、今作はドラムの音が際立つ。4曲があっという間に過ぎ去るが、かき立てられる高揚感に思わずリピートを重ねてしまう。バンドの現在地と広がる未来を力強く告げる必聴の一作。

・・・

10月第2週

roi bob『POOL』

2024年3月活動開始、名古屋発3ピースバンドの1st EP。ドリームポップをキュートでふわふわ可愛いに着地させた6曲。でありながら、偶に垣間見え、が、前面に出ることなく後景に置かれる、オルタナティブなザラつきが面白い。EPのテーマは「depth/深さ」とのこと。奥行きのなかに、柔らかさ、切なさ、冷たさ、焦燥、……、さまざまな感情が重層的に配置される。

・・・

10月第3週

hardnuts『Ark』

hardnuts、初のフルアルバム。作品とバンドを貫く一本の芯があり、その揺るぎなさがあるがゆえの振幅の大きさが印象的だ。ひとひらや雪国に続き、アルバムという形式の意義をあらためて提示する作品が、若いバンドから現れていることが実に頼もしい。タイトル『Ark』は旧約聖書『創世記』のノアの方舟に由来し、めまぐるしく変わり続ける景色のなかで「最後に残るものは何か」という普遍的な問いを掲げる。日本のギターロックやオルタナティブに通じる叙情と、現代的な音像の共生がもたらす心地よさ、そして、飽和する情報の波間でそれでも〈僕〉と〈君〉を見つめ続ける強度。それらこそが、この時代のリアリティに他ならない。

・・・

10月第4週

The Last Dinner Party『From The Pyre』

シアトリカルでヴァナキュラーな今作は……などと上滑りする言葉を並べたくなるが、アルバム全体を通して感じられる「土くささ (砂埃っぽさ)」や、楽曲構築の随所で土地・気候・風土的に機能し参照されるクラシック・ロック/クラシック・ポップの影響は、じつに印象深い。2023〜24年の急伸を経て、こうした “地に足のついた” アルバムを生み出せた環境とバンドの意思に、深い敬意を抱いて聴きたい。

・・・

10月第5週

Khamai Leon『(in chamber)Ⅰ』

エクスペリメンタル・クラシックバンド、Khamai Leonの全編一発録りによるアコースティック音源集。収録曲は、2024年リリースの2ndアルバム『IHATOV』と2025年リリース1st EP『風の谷』より合計7曲。昨年からアコースティック公演を行っているKhamai Leonだが、本作は、楽曲のアレンジのみならず展開までもがすべてて即興で行われているとのことで、二度と同じ演奏は生まれないライブ音源となっている。メンバー全員が音大・藝大出身の彼らのルーツともいえるクラシック、ジャズの演奏を現代のバンド楽曲に落とし込んで再解釈を重ねたものであり、その本領が存分に発揮されている。

・・・

11月第1週

ハシリコミーズ『Friends Orchestra』

バンド4作目となるアルバム。これまでのアルバムやライブでは顕著な熱さをすこし抑え、「しっとり」とも言える質感を前面に出した作品となった。とはいえ、燃えさかる音楽への情熱、言葉 (日本語) に閉じ込められる沸々とした情感は健在。起伏に富むであろうこれからのライブがとても楽しみ。

・・・

11月第2週

cephalo『gloaming point』

それがシューゲイザーなのかシューゲイザーではないのかなんて最早どうでもいいと思うのだが、この数年、数多のバンドが互いに刺激を与えあい高めてきた、オルタナティブ・ロック/インディー・ロックのいまのど真ん中、そして未来への道標を提示する、cephaloの2nd EP。ボーカルfukiのときに力強くときに儚く漂う歌声、きらびやかだが寂寥感あるギター、タイトなリズム隊。バンドとしてだけでなく、シーンとしてここから紡がれる20年代後半にわくわくさせられる今年の1枚。マスタリング・エンジニアはSlowdiveのサイモン・スコット。ナチュラルなそういう接続も良い。

・・・

11月第2週

ひとひら『円』

エモ、マス、ポストロック、オルタナ等々さまざまな要素を内包しながら曲間なく文字通りシームレスに鳴らし続けられる楽曲たち。それは、正にも負にもなり得るが避けることはできない、起伏ある日々の暮らしや人生の投影なのかもしれない。美しく、心が苦しく、叫びだしたくなる。繰り返すという意味では「円」を成すのかもしれないが、たぶん誰も答は知らない。前作に続いて見事な、アルバムである意味があるアルバムに心から敬意を。

・・・

11月第3週

田中ヤコブ『にほひがそこに』

家主のVo./Gt./メインソングライター、田中ヤコブの5thアルバム。いったい田中ヤコブとは何者なのだろう、感嘆せざるを得ない。速すぎず、激しすぎず、明るすぎず、感情的すぎず、すべてがちょうど良く、心地良い。これまでのソロ作品同様、すべての楽器演奏と歌唱、録音/ミックスまでを自身で行う田中ヤコブの審美眼と美意識にどっぷりと浸る音楽体験は、(それこそビートルズ的な) メインストリートに確実に繋がっていながらも、そこからすこし脇に入ったときの光景の美しさに心ふるえてしまう体験かのよう。田中ヤコブ自身はT2 “禁煙なんて” で「なにもすごくないよ」と歌う。凄くはないところにある凄さが大好きなひとは、絶対にぜひ。

・・・

11月第4週

NaNoMoRaL『wa se te wo』

雨宮未來と梶原パセリちゃんからなる2人組ユニットNaNoMoRaLの7曲入り、5thミニ・アルバム。この数年バンドセットでのライブも経験を重ねてきたうえで、「バンドサウンド」の呪縛からも一歩離れ、ふたりの歌を存分に活かすトラックが印象深い。いまの切なさを否定するでもなく肯定するでもなく、だが希望は確実にあることを歌う歌詞たち。最強にポップでハッピーなサウンド。それはこれまでとこれからのNaNoMoRaLの音楽活動そのものでもある。12月1日には新宿LOFTにてワンマン開催。

・・・

12月第1週

sidenerds『wasurerarenai, sorega anata』

1年3ヶ月ぶりにリリースされたsidenerdsの2nd EP。日本的な混沌の淵を垣間見せながらも異世界からやってきたような昨年のシングル/1st EPに比べ、一歩「この世」に踏み込んできた感がある。バンド公式のXでは全曲をアニメの主題歌/オープニング/エンディング/劇中歌という喩えを用いながら曲紹介をしている。デビュー以来、みにあまる雅のヴォーカルが「糖衣」として機能していたのはたしかであり、今作はバンドアンサンブルがさらにそれを包むようになった、と言えるのかもしれない。糖衣の中にあるのは単なる苦さかそれとも毒か、それは繰り返し聴いて自らの肉体で確かめるしかないだろう。

・・・

12月第2週

Blume popo『obscure object』

1月にリリースされたEP『Test for Texture of Text』の好印象もまだ強く残るBlume popoが、12月になり新たなアルバムを届けてくれた。これまでのドイツと日本を行き来する体制から、この秋、活動の拠点を東京に移す。が、その後、不運な事情によりライブ活動が休止されていたが、アルバム・リリースと時を同じくして、その再開もかなった。春以降に単曲リリースされてきた、”抱擁”、”月夜銀河へ”、”ふわふわ” といったハイクオリティな楽曲たちを含む全13曲収録 (”抱擁” は完全別バージョンとなる。あなたはどちらが好きですか?)。シーン、ジャンル、テクスチャの合間を軽やかに舞う。最新であり、心を揺るがす作品。

・・・

12月第3週

SuU『Temples』

今年も残り2週間という日に、なんというものを届けてくれたのか。サポートメンバーであったminakoが加入し新体制となったSuUの1st EP。ぼんやりと「2025年ってこんな年」とか考え、まとまりつつあった頭に、冷水を注ぎ込む。低温のダブ、ひんやりとしたサイケデリックが、空気の手触りと大地の重力の双方を感じさせる。冷たくそして沸たぎり、不安から安寧にいざなう。名作はいつも予言する…… え、2026年ってこんな年になるの?